なべとびすこのなすべきこと

やってみたいをやってみよう。短歌を中心にいろんなことをやっている歌人のブログ。

「お題をもらって即興小説からの短歌」(5月21日分)

Twitterでたまにお題をもらって即興でいろんなことを書く企画をやっています。せっかくなのでまとめておきます。

 

「お題をもらって即興小説からの短歌」5月21日分です。100分で11作の小説(というかただの短い文章)と短歌を作りました。以下、それをそのまま羅列していきます。

 

 

お題「五分五分

 

100万円間近なのに答えがわからない。テレフォンかフィフティフィフティか迷う。オーディエンスはもう使ってしまった。みのもんたが不敵に笑っている。

そんな夢を見てしまう。今更子ども時代に見ていたクイズ番組の夢を見るなんて馬鹿げている。

ただし、子ども時代もずっと考えていた。

フィフティフィフティ、テレフォン、オーディエンス。どれを使えば良いのかと。

 

フィフティフィフティを使えば、4択のクイズから2つの答えを消せる。2択まで絞れば、勘で適当に答えても50パーセント。

 

対して、テレフォンは事前に準備してもらった友人や家族等に質問ができる。クイズが得意な友人を集めれば、正解率は高い。そして今の時代であれば、ネットの検索も速いだろう。

でも、そんな理由とは別で、僕はテレフォンを使うだろう。なんなら序盤で使うだろう。

僕は自分の友人が本当に好きだ。頼りになるし、一緒にいて楽しい。そしてみんなテレビが好きだ。テレフォンを使えばみんなの顔がテレビに映る。僕たちの友情がテレビに映る。だからテレフォンだ。

 

そう子ども時代は思っていた。

夢の中でテレフォンをかけると誰も待機していなかった。30秒、誰もそこにはおらず、答えは絞られなかった。

 

あれは夢だから。

と思う。

でも、今テレフォンで呼びたいと思える友達が浮かばない。

みんな何をしてるんだろう。どこで働いて、どんな暮らしをしているんだろう。

 

あなたは今の幸せは何パーセントですか?

 

A.0%    B.25%    C.50%     D.100%

 

オーディエンスは使ってしまった。テレフォンは無駄だった。フィフティフィフティを選ぶ。

A.0%                                   D.100%

 

2択に絞られる。D、と僕は答える。

 

ファイナルアンサー?と聞かれる。みのもんたが笑っている。

 

ファイナルアンサー、と言えない。言えずに時間が経っていく。

 

  

ABCDって全部答えたい消した答えが可哀想だし

 

 

 

お題「クリームチーズ

 

クリームチーズは美味しい。こんなに美味しいものがあってたまるかと思うくらい美味しい。なんと言ったってなめらかだ。あの感じはバターとかマーガリンでは出せない。味が良いのは前提なので言及しない。

世界がひっくり返っても、現世が終わって来世になっても、クリームチーズは美味しいだろう。

 

君は可愛い。こんなに可愛い人がいてたまるかと思うくらい可愛い。そしてクリームチーズと同じように肌がなめらかだ。顔が整っているのは前提なので言及しない。

でも、世界中が敵に回ったら、僕は君を可愛いとは思えないだろう。世界中を敵に回した君の罪を許せるほど僕は寛容ではない。来世で君と会っても可愛いと思える自信がない。美の基準が時代によって変わるから、とかそういうそれっぽい理由じゃなくて、なんとなくそう思う。

 

だから今、君を可愛いと思っている間に君に告白をしておきたいし、君を可愛いと思っている間に君と付き合いたい。君が可愛くなくなった頃に、一緒にクリームチーズを食べたい。変わらないおいしさと変わってしまった可愛さを見比べて、変わってしまったらそれはそれで良いよねなどと思いたい。

 

と思っている間に、何も起こらずに君は彼氏を作る。

僕はクリームチーズを食べて、クリームチーズ職人の女とお見合いをしたいと思う。

 

 

許したい劣化があった許せると思える心が欲しかっただけ

 

 

お題「自爆

 

ポケモンではじめて「じばく」という言葉を知って、なんて馬鹿な技なんだと思った。

自爆したポケモンは死ぬ。相手に大きなダメージを与えながら死ぬ。でも、自分は100パーセント死ぬが、相手が100パーセント死ぬとは限らないのだ。致命傷になればまだ良いが、どれくらいのダメージを与えられるかはタイプの違いとかレベルの違いとか、いろいろあってわからない。

 

ただ、今猛烈にじばくがしたい。

自分の命は別に要らないし、最後に君を傷つけられればそれで良い。致命傷どころかかすり傷で、いつかそのかさぶたも綺麗に剥がれても良い。

君を傷つけて、君の白血球やらなんやらで僕がつけた傷をかいふくすればそれで良い。すごいキズぐすりを使えばいいし、最悪死んでもげんきのかけらを使えばいい。

 

君は死なない。ほかの5匹のポケモンもいるし、優秀なトレーナーがとなりにいるから死なないだろう。

僕はじばくすれば死ぬ。僕にはトレーナーがついていないし、君がいなくなってからずっと1人だ。

 

今猛烈にじばくがしたい。君を巻き込んで、じばくがしたいのに。

 

  

じばくしていいんだよって言われたいげんきのかけらをちらつかせながら

 

 

 

お題「古文書

 

古文書って、日本語じゃなくても、愛情を持ってずっと見てたらどんなことが書いてるかわかるんだって。

 

お前は馬鹿なのか?

 

「愛情を持って」という馬鹿馬鹿しい概念を持ち出してくるのをやめろ。

愛情を持って話しかけた植物と罵声を浴びせた植物の成長の違いの実験とか、もううるさいんだよ。

 

何度も読んでる。

愛情も持ってる。

それでも読み解けない歌詞が世の中にはあったりすることを、お前はどう考えているんだ?

同じ日本語なのに何を言っているかわからない小説を読んだことがないのか?

 

小学生の時に転校した佐山さんは、転校直前に僕に手紙をくれた。その手紙は、何が書いてあるかわからなかった。いつも使っていたメモ帳が波打っていて、文字がぐちゃぐちゃになっていた。読み解こうとしても何もわからなかった。

なんどもひらいてとじるたびに、新しいシワが増えるだけだった。

 

 

新しい折り目が増えて君からの手紙も年を取ってしまった

 

 

 

お題「フレンチトースト

 

玉子とか牛乳とかを混ぜた液に前日の夜から付けておいたフレンチトーストを焼いて朝いっしょに食べる予定だった。

 

フレンチトーストをつけて冷蔵庫に入れた途端別れ話がはじまった。

「なんで今?」って言うと、フレンチトースト漬けてるやん、と言われた。

フレンチトーストを2人分漬けたということは、朝まで過ごすつもりだと思ったらしい。それは困るので、今のうちに言っておこうと思って、などと供述しており、じゃあせめてフレンチトーストの液に食パンつける前に言えば?!とブチ切れた私に刃向かいもせず、「そういうところやで」と言って彼は出て行った。

それからずっとベッドの上で三角座りをしている。眠った記憶がないし、何を考えていたかよく覚えていない。

カーテンの隙間から光が入って、朝になったと気付く。

フレンチトーストを食べなければいけない。2人分つけてしまったフレンチトーストを1人で食べなければいけない。考えただけで胃がもたれる。じゃあ1枚捨てればいいなんて思えない。捨てたくない理由もわからない。

 

 

「あれはタレ?」「あれは液でしょ」「それは湯気」「これは煙」で、君はだれなの

 

 

 

お題「リアル

 

新宿アウトローこれこそがリアル。

とラッパーが歌っていた。

 

イリーガルライフ。草を巻いて吸って焚いてハイになるそれだけ。

などとラッパーが言っていた。

 

僕にとってのリアルはそんなものではない。

 

残業時間15分を残業代として申告するか悩むのがリアル。

一駅電車に乗れば良いものを10分歩いて180円得をするか迷うのがリアル。

サムギョプサルの店に行くとわかっていたのに白シャツを着てしまい落ち込むことがリアル。

「タバコ吸っていいですか」と言われれば実際は嫌でも「あ、はい」と答えることこそがリアル。

 

ラッパーのリアルと僕のリアルは違う。

僕のリアルと、君のリアルは違った。

違うから別れようと言われた。違って何が悪いんだよ。違うから別れるんじゃなくて、本当の理由は別であったんだと思う。

リアルなんて誰にもわからない。だから、草を巻いてるラッパーもリアルで、残業代を申告できない僕もリアルだ。

リアルに価値なんてない。リアルが価値なら、リアルなんていらない。

 

 

そんなリアルなら要らないしフィクションでいいからハッピーエンドをくれよ

 

 

 

お題「こする

 

メガネについた汚れが取れずにメガネ拭きでこすっていたが、なかなか取れない。大きめの汚れで、しかもしつこい。爪で引っ掻くようにするとやっと取れてホッとする。

 

最初にこすった布は、その汚れをぬぐいきれなかった。でも、その布が拭えた汚れもあるはずだ。目に見えないほどの些細な汚れだろう。

でも、目に見えるものでしか、僕たちは判断しない。汚れを拭えなかったメガネ拭きに対して「メガネ拭きのくせに対したことないな」などと思う。

ばいきんまんを倒すのがアンパンマンの仕事のように思われているが、アンパンマンの仕事はパトロールなどで困った人を助けることだ。

でも、パトロールで困った人にあんぱんを分けるアンパンマンより、ばいきんまんを倒すアンパンマンのことがみんなは好きだ。

メガネ拭きを机に置く。汚れを倒せなかった、大したことのないメガネ拭きを軽蔑するような目で見る。そうしていないと気が狂いそうだ。

痴漢を撃退したり、不良を撃退して褒められて、警察官になった。

でも、こんなのどかな街で事件なんてそうそう起こらない。なにかを撃退することなんてない。警察官なんていらないと、たぶんみんな思っている。

 

本当は、事件が起きるのを待っている。でかい事件が起きるのを待っている。でも、でかい事件が起きて、なにもできなければ。

この布は俺の未来だ。

なにも拭えやしないだろう。

 

遠くで悲鳴が聞こえても、今、動けやしない。

 

 

トロール中のアンパンマンと会うお腹が空いてなくてごめんね

 

 

 

 

お題「シリカゲル

 

両親から大量の海苔が送られてきて馬鹿かと思う。これだけの海苔を消費するために僕はどれだけのおにぎりを握らなければならないのだろう。腱鞘炎にする気か。

 

「友達とおすそ分けしてネ。」というメモが入っている。

母は語尾のネをカタカナにする。ネのあとの「。」は大きめに書く。それに苛立ったことはないのに、大量の海苔を目の前にして苛立ちを覚えてしまう。

 

結局、大して仲良くもないゼミの同期や、そこまでお世話になっていないバイト先の先輩などにひたすら海苔をおすそ分けした。大して喜ばれもしなかった。

海苔を順調に減らしていたところで、僕は彼女に振られた。理由はわからない。そういえば彼女に海苔をおすそ分けしていない。

初めてできた彼女だった。浮気をされていた。僕が海苔をあげたゼミの同期の男と浮気してきた。

 

涙が止まらなかった。こんなに涙が出たら身体中の水分がなくなるんじゃないかと思うくらい泣いた。

食べかけの海苔のなかにシリカゲルがある。僕は慌ててそれを机の上に出す。

残りの海苔の袋も開けて、シリカゲルを机の上にバラバラと出していく。

 

僕の涙をシリカゲルは吸ってくれるだろう。封を開けた海苔は湿気ていくだろう。ふにゃふにゃになって、もう食べられやしない。

 

 

食べられやしない湿気た海苔を折る音は鳴らずに綺麗に折れる

 

 

 

お題「五月雨

 

五月雨が降ってる、と思ったら今は10月だった。春と秋は似ている。

僕の苗字は二階堂だが五階に住んでいる。2と5も似ている気がするのは気のせいだろうか。

5月と10月が似ていて、2と5が似ているなら、2と10も似ていることになる。

でも、二階堂(僕)と十河は似ていない。十の河と書いて「そごう」と読ませる感じは、東の海の林と書いて「しょうじ」と読ませるセンスに似ている。

マンガのなかで、主人公とヒロインが似ているくだりがある。それを周りがからかうまでの流れがセットだ。

似てるからと言ってなぜ恋愛に結びつくのだろうと思っていた。

 

十河と東海林は付き合っている。

苗字が似ているからだと思う。

それ以外の理由を考えないようにしている。

 

 

本当の理由に向き合わないためにでっちあげた理由がそれっぽい

 

 

 

お題「五体投地

 

お願いだから五体投地をやめてくれ。

平凡に生き、平凡に死ぬために生まれてきた。

よくある苗字のよくある名前。よくある家族構成。仲良くも仲悪くもない両親。偏差値50の高校を出て偏差値50の大学に行った。

みんなと同じ時期に就活をはじめ、みんなと同じくらいに内定をもらった。

平凡でありたかった。

平凡を求めるがゆえに、日本人の平均顔に整形まで考えた。

 

それなのに、ある日突然神と呼ばれた。

平凡な人間のサンプルとして、どこかの宇宙人に連れていかれ、神と崇められ、いま、大勢の宇宙人が俺に向かって五体投地をしている。

俺の平凡は殺された。平凡な人間は宇宙人に五体投地をされない。俺の理想の人生は殺されてしまったのだ。

 

 

「これが日本人の平均顔です」と出された顔が僕に似てない

 

 

 

お題「ゾロ目

 

夜中に目が覚めて、デジタル時計をみたら3:33だった。おっ、ゾロ目と思ったが、よく考えれば、「ゾロ目やからなんやねん」という話だ。

今日会社で幸恵さんから、「高山くんは若いから良いよね」と言われた。そのときも思った。「若いからなんやねん」という話である。

たしかに肌のハリとか、肩こりの度合いとか、たくさん歩いても大丈夫とか、体力的なことはあるかもしれない。男女の違いにかかわらず、そりゃ若いほうがいいかもしれない。

幸恵さんからは「関西人だから面白くて良いよね」と言われた。関西人やからなんやねんという話である。

 

3:34

 

「好き嫌いがなくて良いよね」

好き嫌いがないからってなんやねんという話である。

頭のなかで、どうでもいいことばかり浮かんでくる。

いや、どうでも良いことを浮かべようとしている。どうでも良くないことをかき消すために、どうでも良いことでいっぱいにしなければならないのだ。

 

3:41 になる。

ゾロ目が消える。ゾロ目じゃなくても別に良いやん、と思う。

若くなくても良いやん。関西人じゃなくてもいいやん。好き嫌いがあってもいいやんと思う。

 

42歳だし、東北生まれだし、コーヒーとかコーラみたいな黒い飲み物が飲めないし、そんな幸恵さんでもいいやん、って言おうと思う。

 

 

 

なんとなくそういうのってあるでしょうゾロ目じゃなくてもラッキーな数

 

 

 

以上です。

 

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