なべとびすこのなすべきこと

やってみたいをやってみよう。短歌を中心にいろんなことをやっている歌人のブログ。

歌人は特殊能力者では無いけど

突然ですが、短歌には「詠む」(make)と、「読む」(read)があります。

 

私はこれまでいろんな企画で、初心者でも短歌を「詠む」ためのワークショップなんかをメインに開催してきました。

「短歌カードゲーム ミソヒトサジ」もそういう意図で作ったものだし、他にも、「詠む」ためのハードルを下げたり、恥ずかしさをなくしたり、楽しんでもらえるように工夫したり。

 

でも、当たり前っちゃ当たり前なんですが、短歌の楽しみは「詠む」だけじゃない。

短歌は、「詠む」だけじゃなくて、「読む」のも楽しいんです。

 

短歌をやってる人の「読む」力のすごさを何回も目の当たりにしてきて、その度に「短歌をやってて、良かったー!」って思ってきたので、今回改めて紹介します。

 

短歌では「歌会」というものがあって、やり方は歌会によってちょっとずつ違うんですが、基本の流れは

 ・参加者が短歌を提出

 ・提出された短歌一首ずつについて参加者みんなでコメント

みたいな感じです。

歌会によって、

短歌を匿名で出すか作者がわかった状態か、事前に歌を読んでくるか当日発表か、投票があるかないか、テーマがあるかないか、とか、細かいところは色々違います。

 

とにかく、自分以外の人が作った短歌にたくさんの人が「コメント」するわけです。

そのコメントを聞くのが本当に好きなんです。

自分の短歌にコメントしてもらうのは、「おお、ここ伝わってなかったなあ」とか、「そういう解釈もあるんか!」とか、「ここ工夫したから褒められて嬉しい!」とか、ハラハラしながら楽しく聞いたりします。

でも、他の参加者の歌についてのコメントも楽しいです。

特に、牛隆佑さんの「借り家歌会」では、自分の短歌と、自分が好きな短歌を一首ずつ持ち寄る形式なので、いろんな名作短歌に皆がコメントするのを聞けるわけです。

 

この前久々に借り家歌会に行ったので、好きな短歌を提出しました。

 

さんざんに踏まれて平たき吸殻が路上に在りてわれも踏みたり/奥村晃作

 

「平たき吸殻」を踏んでも、他の人はたぶん何とも思っていないけど、この「われ」は踏んだことに対して何かを感じていて、それは後ろめたさみたいなものなのか、もしかしたら自分を重ねているのかな、とか。感情は全く書かれていないのに色々伝わってくる感じが好きで選びました。

そして、好きな歌を持っていくと、他の人のコメントも聞けるわけです。

今回も「平たくなった吸殻=人通りが多い場所 で、下を向いて歩いているはず」みたいなコメントがあって、その観点はなかったー!と思ってびっくりしました。

私は平たき吸殻=時間が経っても誰も拾わなかったもの っていう時間の経過を強く感じていたけど、「人通りの多い場所」っていう可能性もあるし、それ以上に「下を向いて歩いている」というところですよね。

だって、「平たい吸殻」なら、足で踏んでも気づかないはず。ということは、下を向いて、目で見た上で踏んだんかー、と。

他の人のコメントでさらに新しい見方が広がるのが楽しいんですよね。

 

また、良さがわからなかったり、意味がわからなかったりするときは、正直に「ここがわからない」と言うと、わかっている人が「ここはこういう意図かもしれません」と言って解説してくれたりします。

 

短歌を始める前、学校で短歌を勉強した時に私が思ってたのは「いや、こんな短い中からここまで読み取れるかいな」ということでした。

「短すぎてわからない」し、「短くてもわかる」人でしか楽しめない文化だと思って、短歌を敬遠してたんです。

歌集を貸した時に、「一般人にはわからない」と言われたこともあります。その人にとっては、歌人は一般人とは違って、短歌を詠む人は、他の人の短歌も「わかる」と思われてるんじゃないか、と。

でも、私が短歌を始める前に、たぶん穂村弘さんの本に書いてあった「別に歌人同士でも全部わかりあってるわけじゃない」みたいなコメントを読んで、「あっ、全部わかる必要はないんか」と思って、気持ちが楽になりました。

 

だから、歌人は「短い中でもなんでもわかっちゃう」特殊能力者じゃないっていうこともわかってるんですけど、それでも「読む力」が高い人もやっぱり多い気もして、というか歌会を重ねてうまくなっていくのかなと思います。だから、短歌をやっている人と歌詞の話をすると色々新たな発見があります。

 

前にTwitterで、ZONEの「secret base 〜君がくれたもの〜」にある「僕は照れ臭そうにカバンで顔を隠しながら本当はとてもとても嬉しかったよ」という歌詞は、「『僕』という一人称の部分で『照れ臭そう』という方は違和感がある」って言ったんですが、短歌をやっている方から、「ここは過去の自分を回想して客観的な目線で見ている場面なのであえてそうしているのでは」という意見があって、目からウロコでした…

「うおー!歌人ってすげえ〜!」と思いました。

 

1年以上前に「好きな歌詞語る会」っていうのをやったんですが、その時に紹介したthe pillowsの「彼女は今日、」という曲の歌詞についても、他の人からコメントをもらって、新しい発見がありました。

nabelab00.hatenablog.com

 

一首でも色んな見方ある、というのは.原井さんの「一歌談欒企画」とかを見てもらっても良いかもしれません。私も参加しています。

dottoharai.hatenablog.com

 

タイトルに書いた通り、歌人は別に特殊能力者じゃないけど、でも単純に短歌ファンとして、「読む力」が高い、短歌をやっていく内に「読む力」が高くなった人って多い気もしていて、その人たちの話を聞くのは本当に楽しい。

ぜひ歌会に行って、色んな人のコメントを聞いたりしてみてください。