思春期の頃に好きだった曲の歌詞を改めて聴く〜有心論/RADWIMPS編
突然ですが、「中高生のときに好きになった曲は永遠に聴き続ける」みたいなこと言う人いるじゃないですか?
私はあんまり信じてないです。
名作映画と言われてる『スタンドバイミー』のラストの言葉と同じくらい信じてないです。(思い出せない人は各々ググってください)
中高生のときに好きになった曲でも、もちろん今も好きな曲もありますよ。
中学生のときにMr.Childrenの「シフクノオト」ってアルバム死ぬほど聴いたけど、やっぱり未だに最高やと思うし、高校生になってからハマったthe pillowsの第3期の曲(アルバムで言うと「Please,Mr Lostman」から「Wake up! Wake up! Wake up! 」までだいたい時系列順に聴いて「PIED PIPER」以降はそれぞれ発売後すぐ購入して聴いた)も最高ですよ。
しかしながら、当時「ちょっと…この歌詞…こんなんマジで神やろ…」って思った歌詞のなかには、今聞くともうその当時の熱量では語れないというか、なんというか恥ずかしさというか、いや、やっぱりすげえなという気持ちはあるものの、当時ほど純粋に「神やろ…」とか言ってられない曲もあるんですよね。
でも逆に、当時はわからなかった技法、たとえば韻の話とか、比喩の話とか、短歌をやってきたからこそわかる良さみたいなのもあるわけです。
ということで、当時の「神やろ…」と思った頃のテンションで、今だからわかる技法の解説とか込みで、当時本気で好きやった歌詞のこと語っていきたいと思います。
全歌詞はこちら
当時から思ってたんですけど、2番からの展開、ヤバないですか?
君は人間洗浄機 この機会にどのご家庭にも一つは用意して頂きたい
こりゃ買わない手はない 嘘ではない
驚くべき効果を発揮します 新しい自分に出会えます
ただ中毒性がございます 用法・用量をお守りください
ここで、君=人間洗浄機 という比喩が出てくるわけですね。
君=人間洗浄機 ということで、家電のキャッチフレーズ風にセールスポイントと注意事項などを読み上げていきます。
君=人間洗浄機は
メリット:新しい自分に出会える
デメリット:中毒性があるので用法用量を守る必要有り
なんですね。
いきなり2番の解説からはじめてますが、この歌詞の最初は
今まで僕がついた嘘と 今まで僕が言ったホント
どっちが多いか怪しくなって 探すのやめた
自分の中の嫌いなところ 自分の中の好きなところ
どっちが多いかもう分かってて 悲しくなった
という感じで始まります。簡単に言ってしまうと自己嫌悪に陥っている状態ですよね。
どうせいつかは嫌われるなら 愛した人に憎まれるなら
そうなる前に僕の方から嫌った 僕だった
だけどいつかは誰かを求め 愛されたいとそう望むなら
そうなる前に僕の方から
愛してみてよと
「どうせいつかは嫌われる/憎まれる」なら「そうなる前に嫌う」というスタンスをとっている「僕」の本当の気持ちは、「いつかは誰かを求め 愛されたい」ということで、おそらく君=人間洗浄機はその本心に気づいて「僕(自分)の方から愛してみて」という提案をしたんでしょうね。
その結果
明日を呪う人間不信者は 明日を夢見る人間信者に
僕=明日を呪う人間不信者 は、
僕=明日を夢見る人間信者 になった、という経緯があるんですね。
そういう状態で現れた「君」だからこそ、絶望していた自分を綺麗にする「人間洗浄機」として絶賛されているわけですね。
そもそもなんでこんなこと(君は人間洗浄機〜用法用量をお守りください)を言い出したのかというと、これは「やっとこさ君のクローンが成功したとき」用のキャッチフレーズなんですね!
いやいや、一般人女性(※この曲が書かれた当時の彼女。この時期一旦破局)のクローンなんて作られへんやろ、って思うじゃないですか?!
でもこの「君」は「世界初の肉眼で確認できる愛」であり「地上で唯一出会える神様」なんですね。だからクローンも作られるわけですよ。めちゃくちゃ貴重な存在なので。
あとここ、歌いかたが「地上で唯一出会える神…様」みたいな感じで、神の後に一拍置いてるんですけど、これによって「愛」と「神」で韻を踏まれてるのが強調される感じで良いですね。
それでもちゃんと「様」をこぼさずつけるあたりに相手へのリスペクトも感じられますね。
そしてこの一瞬の間のところのギターかっこいいですね。
ここまでで
君=人間洗浄機=世界初の肉眼で確認できる愛=地上で唯一出会える神様
となったわけですが、当然「君」=「神」なので、神といえば世界を作ったり、ときには世界を揺るがす存在なわけですよね。
ということで、神の業務としては
誰も端っこで泣かないようにと 君は地球を丸くした
誰も命 無駄にしないようにと 君は命に終わり作った
などがあるわけですね。スケールがでけえ。しかし、ここから不穏な空気になっていきます。
するとね君は いつでもここに 来てくれたのに もうここにいない いない
明日を夢見た人間信者は 明日の死を待つ自殺志願者に
3分前の僕がまた顔を出す
ここ、MVでみると非常にわかりやすいんですが、
「3分前の僕」っていうのは、この曲の中でちょうど3分前=曲の最初の部分の心情を指しています。「明日を夢見た人間信者は 明日の死を待つ自殺志願者に」と書いてあるように、これでは振り出しに戻ってしまうやん…と思うんですが、
ような感覚なんですが
息を止めると心があったよ そこを開くと君がいたんだよ
左心房に君がいるなら問題はない ない ないよね
というように、ちゃんと心の中には「君」がいることに気づくんですね。このあと、演奏が止まって時計の音が2秒間鳴って、最後は
2秒前までの自殺志願者を 君は永久幸福論者に変えてくれた
そんな君はもういない いない いない いないけど
この心臓に君がいるんだよ 全身に向け脈を打つんだよ
今日も生きて 今日も生きて そして 今のままでいてと
白血球、赤血球、その他諸々の愛を僕に送る
となります。「君」=「神」はもうそこにいなくても、自分の心の中の「君」がいつまでも「白血球、赤血球、その他諸々の愛」を送ってくれることに気づいて終わります。
いや〜良い歌詞でしたね!!!!
ちょっと歌詞が重くて28歳にもなって大声で有心論のこと好きって言われへんとか思ってたけど、普通に表現のギミックとか含めて、やっぱりすげえな…って思いました。
昔から気に入ってたキャッチフレーズのとこも、今読み返すと、
「中毒性がございます 用法容量をお守りください」って、逆に言えば用法容量さえ守っていれば、中毒にはならないということじゃないのかなと思います。
中毒になるのは用法容量を守らなかったユーザー側(僕)の問題で、人間洗浄機の問題ではない=君は悪くない っていう風にも考えられますね。
さらに、よくよく考えれば、通常でキャッチフレーズに、この「中毒性」や「用法用量を〜」という文言は入りませんよね。どちらかといえば取扱説明書のイメージでした。
しかも、「中毒性がございます 用法容量をお守りください」っていう文言、「用法容量をお守りください」は医薬品の注意書きとして用いられていますが、「中毒性がございます」は一般にある文言を歌詞に入れ込んだものだと思ってたんですけど、意外と存在しないんですね。
(「中毒性がございます」で検索しても、この曲の情報がヒットする)
一般的に使われている「中毒性〜」に近い文言は、
人により程度は異なりますが、ニコチンにより喫煙への依存が生じます。(たばこ警告表示 - Wikipedia)
ですかね。お酒もそういう表示あったかな〜と思ったんですが、「飲みすぎに注意」程度ですね。
なので、
キャッチフレーズ+たばこ警告表示っぽいオリジナルの文言+医薬品の文言 が組み合わさった歌詞で独自の雰囲気が出来上がってるんですね…。
いや、高校の時はなんとなく「すげえな」でしたが、やっぱりいろいろ考えて「すげえな」でした。
(「思春期の頃に好きだった曲の歌詞を改めて聴く」ブログ書こうと思ってから、BUMP OF CHICKENの「ラフ・メイカー」にするか迷いました。)