歌詞に固有名詞を入れる天才、ZORN
今めちゃくちゃハマってるミュージシャンがいるので書きます。
ラッパーのZORN。
ZORN Official Site – ZORNオフィシャルサイト / 昭和レコード
ZORNは、ZONEではない。
君と夏の終わり将来の夢大きな希望忘れないではない。
※ZONEのsecret baseの歌詞について書いたこともありました。
話は戻ってZORN。ラッパーです。
少年院何回も入ったりしてたけど、今は結婚して奥さんの連れ子の娘2人と、そのあとまた子どもが生まれてたっぽいので三児のパパ。平日は普通に作業着で働いてます。
平成元年生まれのゆとり世代。
この辺の情報は全部歌詞に入ってます。
元々ZORN好きになったのはこの曲。
My Life
1番で仕事、2番で家庭、3番で音楽について書かれた歌詞。あとMV良すぎるので見てほしい。この曲で有名になったのが
洗濯物干すのもHIPHOP
って歌詞。
従来のHIPHOPのイメージでは、洗濯物なんか干さないじゃないですか。
というか、そりゃ昔からラッパーも洗濯物干してたやろうけど、それは見せたくない、見る側としてもあんまり見たくない部分だったと思います。
でもZORNは仕事、家庭、音楽が全部まとめて「生活(Life)」で、だから洗濯物干すのもHIPHOPなんやと思う。
歌詞の流れでいうと
一本道を行こう 洗濯物干すのもHIPHOP
なので、仕事、家庭、音楽が一本道ってことかなと思います。
「一本」「行こ」「HIPHOP」のとこでサラッと「いお」の母音で韻を踏んでる。
こうい短く韻踏むところもあるけど、がっつり長めに踏むのも多い。
かんおけ
認知症のばあちゃん孫の顔も蜃気楼の中
なにももう覚えてない末期症状
おまけにパーキンソン病で足と両手が震え続け 封じようがない不治の病
認知症のばあちゃん、蜃気楼の中(いいおうをああ)
なにももう、末期症状、パーキンソン病、足と両手(あいおおう)
封じようがない、不治の病(うういおああい)
みたいな感じです。韻踏んでたら意味はどうでもいいって感じのラップも個人的にはわりと好きなんですが、ZORNは意味も完璧に通してくるのがアツいですね。
あと、これ1番好きな曲なんですが、
2 da future
19 20 21
地球規模じゃ 微粒子 生きる道や
日々や 意味は 全て君の自由意思
この部分、急にリズムが早口になるんですけど、文節の頭の母音がほとんど「い」で始まってて、全体的に「い」が続くので気持ち良い。
もちろん
地球規模 微粒子 自由意志(いううい) でも韻踏んでるし
日々や 意味は でも韻踏んでるんですけど。
ググった偉人の名言 鵜呑みにする気は微塵もねえぜ
みたいな「偉人の名言」「微塵もねえぜ」みたいな長い韻でキメがあるのも多いですね。
あと
断りなく
大人になる
この場に立つ
のところは6文字の母音を完全に一致させたりもしてます。
ZORNの魅力は「リアル」「等身大」的な内容の歌詞、がっつり踏んでくる韻、あと歌詞に固有名詞をめちゃくちゃ入れるのが特徴のひとつだと思います。(あとふつうに顔も声も好き)
やっと本題なんですが、たまにTwitterとかで「固有名詞のある短歌が好き」って話が出るじゃないですか。
私も固有名詞が出てくる短歌とか歌詞とか小説とかエッセイとか好きです。
その固有名詞を知らなければ楽しめないってところはデメリットとしてあるけど、固有名詞についてるその時代の匂いとか、ブランドイメージとかをうまく使うのって良いなと思います。
もしそのブランドが古くなったら一緒に作品も古くなるけど、それも私は良いと思う。歳を取らない作品もいいけど、歳を取る作品も好きです。
自分の歌集でも固有名詞はけっこう意図的に入れました。まだ誰も短歌に使ってない固有名詞入れたいって思って、固有名詞ありきで作った歌も何首かありました。
ということで、最近買ったZORNの昭和レコード(フリースタイルダンジョンの般若のレーベル)第1作アルバム「サードチルドレン」のなかの歌詞で入ってる固有名詞だけ歌詞カードを見て書き出してみました。
着せ替えバービー
東京
2.Hands up
昭和のメンツ
*この「昭和」はZORNが所属する昭和レコードのこと
カッコつけても狩野英孝
ジェイソンのチェーンソー
コロコロ ボンボン
ツイートで手一杯?
こちら葛飾区
まるでバスキア
*「バスキア」はたぶん「ジャン=ミシェル・バスキア」っていうアメリカの画家
ググった偉人の名言
6.Music
相棒はiPod
7.Skit~留守電
8.Delivery
まるでモンロー シャネルの5番
サンジよりも紳士
軽く一品MOCO'S キッチン
ランドやシーに行かなくても会える俺はジーニーそれかミッキー
10.Escape
11Wake up
安靴 ジョーダン 二足のわらじの日々
13.Get a chance
「サードチルドレン」に限ればこれだけですが、他の曲の固有名詞、まだまだあります。
固有名詞を使う意図はいろいろあって、ZORNの場合は生活の匂い的なもの、逆にHIPHOP的なブランドもの が対照的に使われたりもしてると思います。
帰り道ぱぱすで買って帰るパンパース
ピューロランドでハグするキキララ
嫁のシャンプーはヴィダルサスーン
とかは、パパとしての生活。
反対に、かつて憧れていたHIPHOP的な金持ちの生活でハイブランドの名前も多いですね。
ヴィトンドルガバ
ボッテガ履いてる成金詐欺師 自称IT でも偽装ID
これが組み合わさって、
全身Supremeで授業参観
って歌詞になるのもいいですね。「ラッパーであり、パパでもある生活」を表現するために「Supreme」というストリート系の高いブランドの名前と「授業参観」という単語を使うのがうまいですよね。
あと、意外とディズニーの用語も多い。
さっさと塔を出ろラプンツェル
ランドやシーに行かなくても会える俺はジーニーそれかミッキー
この辺は娘の好みなんかなという感じ。
「シャウエッセン」っていうタイトルから固有名詞使ってる歌まであるんですけど、この曲はリッチでセレブな暮らしじゃなくて、生活のなかでのちょっとした喜び、手を伸ばしたところにある喜びって感じで、シャウエッセンのブランドイメージがわりとそのまま使われてる感じも良い。
(「リプトン」ってタイトルの曲もあります)
思春期あたりを振り返す歌詞になると
「エースコックの豚キム」「パックのリプトン」「バーミヤン」「サイゼリヤ」「登録してたいろメロミックス」「マクドナルド前」「手札並べてた遊戯王」「キャッチにキャバ嬢 ドンキ前 スウェット上下のロンリーガール」
とか、この辺は若者感と世代感が同時に出てくる。
あと、
「Make Some Noise」の
身体は大人 頭脳は子ども俺は逆コナン
とか、
「Macraren」の
ビオレパパパパ弱酸性
とかもユーモアセンス感じますね。
「東京Watch」の
充電切れたら林檎も洋ナシ
の「林檎」は普通の林檎じゃなくて、iPhoneかiPodで、「用無し」ってことだろうな、とか。
これまで、なんとなく固有名詞が入ってる歌って好きだなーと思ってたんですが、ZORNの歌詞聞いてると改めてその理由がわかってきた気がします。
ちなみに、私の短歌にも固有名詞の短歌がたくさんあります。歌集に収録されているのでぜひ。
死ぬことを期待されてて柔らかく生まれたぺこラクボトルをつぶす/なべとびすこ
ZORNに憧れてるので、ラップもやってしまいました。